東京地方裁判所 平成12年(ワ)15015号 判決
原告 A
被告 高橋栄二
右訴訟代理人弁護士 高荒敏明
被告 ミニストップ株式会社
右代表者代表取締役 横尾博
右訴訟代理人弁護士 牛島信
黒木資浩
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
一 請求
被告らは、原告に対し、
1 被告ミニストップ株式会社(以下「被告会社」という)代表取締役横尾博及び被告高橋栄二店長(以下「被告高橋」という)両名のサイン、捺印のある謝罪文を提出し、原告に直接面談の上、謝罪せよ。
2 九五万円を支払え。
3 被告高橋が店内にて「うるせいな」と発言した原因を調査し、その原因に対する教育方法、資料(対策)を提出せよ。同被告の自覚をどのように行ったか自覚の証拠を文書で提出せよ。
二 事案の概要
本件は、コンビニエンスストアの店長の接客行為に不快な態度があったとして、右接客を受けた原告が被告らに対し謝罪文の提出や謝罪金の支払を求めたものであり、当事者の主張は以下のとおりである。
1 請求原因
(一) 原告は、平成一二年五月七日(日曜日)午後一〇時ころ、ミニストップ南蒲田二丁目店(以下「本件店舗」という)で数枚のコピーを撮ったところ、内二枚につき黒インクの滲んだ不良コピーが発生した。そこで、原告は近くにいた店員とおぼしき人物に声をかけ、どうすればクリーンなコピーが取れるのかと尋ね、併せてコピー機に問題があってそれが原因で滲んだのであればクレームとしたい旨を伝えたところ、右店員は「うるせいな!」と原告に言った。
(二) コピーを撮り終えた原告は、カウンターへ行き、クレームとしたい旨を伝えたところ、右店員は再度「うるせいな!」と原告に言った。カウンターレジの前には他に三組の客がおり、原告はなぜ右客達の前でこのように言われなければならないのか理解できないまま家に帰った。なお、原告は右の抗議の際に右店員から前記不良コピー二枚分のコピー代二〇円の返還を受けた。
しかし、帰宅後も納得のいかなかった原告は、同日午後一一時ころ再度本件店舗に赴き、右店員に対し前記の「うるせいな」の発言をしたことの確認を求めたところ、右店員はこれを認めた。そこで、原告は右店員に対し責任者に電話したいので番号を教えるよう申し入れたところ、「私が店長です(高橋)」と答えた。そこで初めて原告は、右店員が店長で被告高橋であることを知り、「あれがお客さんに対する態度なのですか?」と言ったところ、同被告は再度「うるせいな!」と言った。原告は同被告に対し続けて何度も誤って欲しい旨申し述べると、同被告は笑いながら、誠実さの全く感じられない態度で「すみません」と言ったので、原告は「カラ謝りは困ります」と抗議すると、再度同被告は横に顔をそらしながら「うるせいな!」と言った。
(三) 原告は、平成一二年五月九日、同月三一日及び同年六月七日に被告会社の沖某及び大嶋某に次の要望を申し出た。
(1) 高橋店長に教育を実施し、教育実施日時、内容、教育に使用したコピーを提出すること
(2) 高橋店長が暴言に及んだ原因(疲労、性格)を明確にし、その原因に対する対策を明らかにすること、
(3) 教育の結果、自覚をさせた方法と、自覚した証拠を提出すること
(4) 高橋店長本人に謝罪させ、相当額の金銭を支払わせること
(四) よって、原告は被告らに対し、請求欄記載のとおりの判決を求める。
2 被告らの請求原因に対する認否、反論
(一) 被告会社
(1) 本件店舗の経営は、被告会社とは完全に独立した事業主体であり、独立した法的地位を有する有限会社丸正サービス(以下「丸正」という)に係るものであり、被告会社は丸正との間でフランチャイズ契約を締結し、同会社に対し経営ノウハウ等を提供しているにすぎずない。また、被告高橋は丸正に雇傭されている者である。したがって、被告会社は、丸正及び被告高橋との間に何らの指揮監督関係を有しないものである。
(2) 右のとおりであるから、被告会社は被告高橋の行為に起因する本件請求に関して何ら責任を負うべき地位になく、原告の被告会社に対する請求は主張自体失当であり、棄却されるべきである。
(二) 被告高橋
(1) 請求原因事実に関しては、原告がコピーの出来上がりについて不満を持ち、被告高橋に対しクレームをつけたこと、同被告が原告の執拗なクレームについ「うるせいな」と発言してしまったことは認める。しかし、右発言に至った経緯は次に述べるとおりであり、不法行為を構成するようなものではない。
(2) ア 被告らの地位等
被告高橋は平成一〇年八月ころから丸正に雇傭され、本件店舗の店長に就いている。丸正は被告会社とフランチャイズ契約を締結し、本件店舗を経営している。被告高橋が本件以前に客との間で紛争を起こしたことはない。
イ 本件事件の経緯
原告は、本件店舗で身分証明書らしきもののコピーをコピー元として更にコピーを二葉撮ったが、出来上がったコピーは顔写真部分が全体的に黒っぽくなり、顔の判別が困難なものであった。しかし、その原因はコピー機の性能にあるのではなく、写り具合を改善するには原本を持参し、それをコピー元とする必要があった。
原告は、被告高橋に対し、撮り終えたコピーを示してどうすればうまく撮せるか尋ねてきたので、同被告は原本を持参して撮って下さい、コピーからのコピーでは何度やっても同じことになりますからと答えた。このような事態はよくあることであり、それまでの客は被告高橋の右のような説明で皆納得していた。
その後、被告高橋はレジで支払業務に従事していたところ、原告が「こんなコピーに対してお金を払う気にならない。金を返せ」ときつい調子で抗議してきた。そこでやむなく同被告は原告に対し不良コピー代金分の二〇円を返し、原告はそれを受領した。その際、同被告は原告のそれまでの理不尽な抗議に加え、返す必要もない代金返還要求を受け、悔しさの余り、つい「うるせいな」と言ってしまった。原告はその後、同被告に対し、「このヤロー」とか「そんなぼろっちいコピー機をおくな」などと罵声を浴びせた。同被告は聞き流していたが、再度「うるせいな」と言った。原告は、本件店舗から外に出る際、店舗の外に設置してあった金属製の傘立てを強く蹴飛ばし、これを変形させた。
原告は、同日の午後一一時ころ再度本件店舗にやってきて、店舗の責任者を出せと言ったので、被告高橋が自分が責任者であることを申し出た。そして、同被告は原告に対し、先ほど「うるせいな」と発言したことについて「先ほどは、すみませんでした」と頭を下げながら謝った。すると、原告は「今更謝ってもらっても気が済まない。本部の電話番号を教えろ」と要求したので、被告会社の電話番号を教えた。その後、原告は被告高橋の謝罪を受け入れる素振りをみせず、何か文句を言いながら帰っていった。
ウ 原告が非難する被告高橋の言動は以上の経緯の下にされたものであるから、仮に原告がこれに対し不快な感情を抱いたとしても、同被告の一連の言動は法的責任を生ぜしめるほどの違法なものではない。
三 裁判所の判断
1 被告会社に対する責任
原告の主張によれば、本訴請求は本件店舗の店長である被告高橋の原告に対する接客行為に不法行為があったとして非難するものであり、法的には民法七一五条に基づき使用者責任を問うものと解される。しかし、同被告が被告会社の従業員であることを明らかにする証拠はなく、かえって証拠(乙一)及び弁論の全趣旨によれば、本件店舗は被告会社とは別法人格の丸正の経営に係り、被告高橋は右丸正に雇傭されているものであって、被告会社は丸正とはフランチャイズ契約を締結し、これに経営上のノウハウ等を提供する関係にあるにとどまり、被告高橋との間には何らの雇傭関係はなく、丸正及び同被告に対し何らの指揮監督権限を有するものではないことが窺われる。
したがって、その余について判断するまでもなく(なお、被告高橋の言動が不法行為を構成するものではないことは後記認定のとおりである)、原告の被告会社に対する請求は理由がなく失当というべきである。
2 被告高橋に対する請求
(一) 原告は本件店舗に設置されたコピー機による謄写が鮮明なものではなかったことをについて被告高橋に苦情を申し述べたところ、これに対する同被告の対応が不愉快なものであったとして、謝罪文の提出や慰藉料の支払を求めるものである。しかし、弁論の全趣旨によれば、原告がコピーを撮った元資料は身分証明書のような文書であるが原本ではなく、コピーしたものを元に更にこれからコピーを撮ったというものであり、しかも不鮮明な部分は写真部分であることが窺われるところ、このようなコピーの撮り方をすれば、コンビニエンスストアのような場所に設置してある通常のコピー機では写真部分が不鮮明に写るのはやむを得ないものであり、鮮明なコピーを撮りたいのであれば、原本を持参して行うべきであり、原告の非難ないしクレームは本件店舗の責任者に無理難題を強いるものであって、不鮮明なコピーとなったことについては原本持参の配慮を欠いた原告自身が責められるべきであって、本件店舗の責任者である被告高橋には格別非難されるべき点はないというべきである。
そして、右事実に弁論の全趣旨によれば、原告が非難する被告高橋の「うるせいな」という言動は原告の主張自体からも窺われる執拗なしかも前記のとおり筋違いの抗議のために業務を妨げられた同被告が感情的になって思わず発言に及んだものと推認されるのであり、その発言の経緯及び内容並びに同被告が右発言についてその直後に原告に謝罪の言辞を述べていること等に照らし、右発言ないし原告に対する接客行為に不法行為を構成するような違法があるものとは到底認められないというべきである。
(二) 右のとおりであり、原告の被告高橋に対する請求もまたその余について検討するまでもなく理由のないことが明かである。
3 よって、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 藤村啓)